人に与えられた時間は平等です。
1日は24時間で、時間というモノは誰もが同じ。子どもから大人まで変わることはありません。
唯一変わることがあるとすれば、時間の使い方。「なにに、どこに、だれに」24時間の使い道は、自分次第です。
もちろん、1日1日の積み重ねは当たり前のようにあります。
昨日できなかったことが今日できるかもしれない。明日はもっとできるかもしれない。
でも、もしもあなたの記憶がたったの80分しかもたなかったら?
「80分後にはいま覚えたことがなかったことになる」「いま会った人の顔や名前が分からなくなる」
想像もつかない状況が物語のキーワード。
漠然とした内容かと思いきや、ゆったりと読むことができた物語。
博士の愛した数式
小川洋子さんが書いた「博士の愛した数式」
1962(昭和37)年、岡山県生れ。早稲田大学第一文学部卒。1988年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。1991(平成3)年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。主な著書に『ホテル・アイリス』『沈黙博物館』『アンネ・フランクの記憶』『薬指の標本』『夜明けの縁をさ迷う人々』『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』等。2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞を受賞。『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、2006年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、2013年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。翻訳された作品も多く、海外での評価も高い。
新潮社HPより
僕の記憶は80分しかもたない
ある日、元大学教授の数学者「博士」のもとへ主人公の「私」は家政婦として派遣される。
どんな雇い主が相手でも仕事をこなしてきた私ですが、博士とのやり取りは、非常に難しい。
なぜなら、博士の記憶は80分しかもたないうえ、数字にしか興味を示さないのです。
会話をしようにも記憶が続かない、数学の問題を解くことに夢中でコミュニケーションが成り立たない。
「僕は今考えているんだ。考えているのを邪魔されるのは、首を絞められるより苦しいんだ。
数字と愛を交わしているところにずかずか踏み込んでくるなんて、トイレを覗くより失礼じゃないか、君」
私はうな垂れ、何度も謝ったが、彼に言葉は届いていなかった。P21より
計算してごらん。ゆっくりで、構わないから
博士の記憶がある年を境に、一切進むことがなく私が何か最近の時事ネタを話そうにも話せない。
不用意な発言で博士を傷つけるかもしれないから。
その一方で博士も私に気をつかい、仕事・家族・出身のことなど聞いたりしない。何度も同じことを聞いては失礼だと思ったのでしょう。
そんな二人がお互いに気を使わず話せるのは数字についてです。
二人に関係する1組の友愛数を見つけてから距離がグッと縮まったかもしれません。
つまり私たちが何の心配なく話せるのは、数字についてだけだった。学校へ行っていた頃から数学は教科書を見ただけで寒気がするくらい嫌いだったが、博士が博士が教えてくれる数の問題は、素直に頭に入った。
P38より
10才の息子「ルート」の存在
「子どもを独りぼっちにしてはいけない」そんな博士の意見から。私の10才の息子も「博士の家」に来るようになりました。
息子の頭のてっぺんがルート記号のように平らだったので、博士は息子に「ルート」と名付けました。
「君はルートだよ。どんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる、実に寛大な記号、ルートだ」早速博士は袖口のメモの続きにその記号を書き加えた。
《新しい家政婦さん と、 その息子10歳 √》P45より
ここから「私とルートと博士」3人の何気ない日常が淡々と綴られます。
哀しくも温かい日々
一貫して「静かに穏やかに」日常が描かれています。様々な出来事が起こるけど、ゴチャゴチャしたり、盛り上がったりもしません。
「私の愛情」「ルートの思いやり」「博士の優しさ」この3つがバランスよく成り立っていると思いました。
人として大事な心の在り方について感じました。
作中に登場する「数字」は、完璧に理解はできなくても、雰囲気で何を伝えたいのかわかります。
ゆったりと読書を楽しみたい人にオススメの一冊です。[list class=”li-mainbdr li-double strong”]
夏休みの読書感想文にはもってこい!