辞書の編集を題材にされた物語「大渡海」の完成に向けて、長い長い旅へ出る登場人物たち。
辞書編集の仕事を通して、長時間一つのことに打ち込む姿勢、ただ真っすぐに、目の前の一点に集中し続ける熱量に心が動かされた一冊です。
漠然と仕事をしていた自分にガンッと喝が入りました。
三浦しをんさんが書かれた「舟を編む」を知った理由はアニメでした。すぐストーリーの虜になり、一気に全話を観てしまうほど。
公式サイト TVアニメ「舟を編む」
この時は寝不足になりました。こんなに面白いアニメがあるなんて知らなかった、と思い調べてみたところ原作であるこの小説に出会いました。
辞書で繋がる人間関係
舟を編むに出てくる登場人物は主に8人です。
馬締、香具矢、松本、荒木、西岡、佐々木、岸辺、宮本
どの人も惹かれる魅力があります。他にもいますが、物語に大きく関わるのは8人だと僕は思いました。
それぞれがどんな人物で、どんな役割をしているかを書きすぎると、ネタバレになるので控えます。
- 気持ちを言葉にするのが苦手
- 器用貧乏で変なプライドがある
- 製紙、料理、辞書など仕事への向き合い
- 好きでたまらない仕事ができる
- 目の前の仕事に真面目に向き合うことで誇りを持てる
多様な面を持つ登場人物に自分自身を照らし合わせてしまい、一人ひとりに愛着が湧きました。
辞書を1冊つくる。物語のテーマはその一点のみ。
それにも関わらず、一人ひとりの人間関係が、バラバラのビーズを紐で結んでいくかのようにていねいに繋がっていきます。
言葉という海を渡る舟をつくる
感謝の気持ちを伝えたい、美味しい料理の味を話したい、本の感想を書きたい、自分の感情を誰かに届けたいと考えるとき、言葉は必要です。
届けたい気持ちが大きければ大きいほど、相手が大事な人であればあるほど、どんな言葉を使えばいいのか分からなくなります。
「辞書は言葉の海を渡る舟だ」魂の根幹を吐露する思いで、荒木は告げた。「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。もっとふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫然とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」
本文より P34~35
言葉の海に溺れないよう、迷わないように辞書はある。そんなことに気づいた場面。
情報に溺れてしまいそうな現代社会では、辞書のような指針となる何かが必須だと思いました。
不安と希望は表裏一体
言葉は届ける側と受けとる側の両者がいて、はじめて成り立つもの。
言葉ではなかなか伝わらない、通じあえないことに焦れて、だけど結局は、心を映した不器用な言葉を、勇気をもって差しだすほかない。相手が受け止めてくれるよう願って。言葉にまつわる不安と希望を実感するからこそ、言葉がいっぱい詰まった辞書を、まじめさんは熱心に作ろうとしているんじゃないだろうか。
本文より P233
主人公の馬締は辞書作りに没頭している。その理由は言葉の使い方をよく知っているからではない。むしろその反対で、うまく気持ちを言葉にできず人付き合いが苦手なタイプです。
そんな主人公だから、不安も希望も人一倍分かるから、辞書作りに熱狂できるんだと思いました。
人は自分の弱点を克服しようとするときにこそ、想像できないような力を物事に注げるのかもしれません。
僕自身のことを振り返るとこのパターンです。コンプレックスがあったから、いまの原動力になっています。
飾りよりも使える言葉
難しい言葉、聞きなれないカッコいい言葉。飾りの言葉よりも、使える言葉を自分の武器として持つことができるのか。
言葉の持つ力。傷つけるためではなく、だれかを守り、だれかに伝え、だれかとつながりあうための力に自覚的になってから、自分の心を探り、周囲のひとの気持ちや考えを注意深く汲み取ろうとするようになった。岸辺は『大渡海』編集を通し、言葉という新しい武器を、真実の意味で手に入れようとしているところだった。
本文より P255
人前で話をする度にいつも思います。僕の話している言葉は誰かに届いているのか、誰かの役に立っているのかと。
自分自身を飾るための言葉を発してしまうことのないように、細心の注意をはかっています。
大渡海は大都会だと思います
舟を編むの中に出てくる「大渡海」という辞書名。最初に聞いたときから、僕は「大渡海=大都会」だと考えていました。
今の社会は莫大な情報、モノ、コトで覆われています。そんな大都会を自分の意思で進むことは簡単でないように感じます。
大都会を突き進む船が、求められている気がします。そんなことを考えながら「舟を編む」を読むと、より一層楽しめること間違いなしです。
Instagramに読んだ本を載せているのでフォローして貰えると嬉しいです![