トランスジェンダーと仕事をテーマに「当事者で就職・転職活動を経験した先輩」へのインタビュー企画。
- 仕事につけるの?
- カミングアウトのタイミングは?
- そもそもカミングアウトはする?
- 一部の人だけに伝えたい?埋没派?
- 履歴書の性別欄はどっち?
- 服装は?化粧は?
トランスジェンダー当事者の人が疑問に思うことを解消できたらと思い、インタビューを思いつきました。
先輩の実体験を聞くことで、具体的にどんなことに気をつけたらいいのか、何をいつまでに準備したらいいのか、転職本に載っていない生の声を届けます。
もちろん、良かった点だけでなく「失敗したな」という意見も、隠さずに書いていきますよ。
カズマさんってどんな人?
現在、カズマさんは中小企業で働いているそうなんですが、今回は「トランスジェンダーの転職」について体験談を聞かせてください。まずはじめに簡単な自己紹介をお願いします。
プロフィールと治療歴はこんな感じですね。
カズマさんのプロフィール
カズマ
1992年生まれ。四年制大学を卒業後、新卒でベンチャー企業に入社(2015)。
退職後は一般人法人設立し、地元の中小企に転職(2016)。
現在は、営業マンとして働きながら年間50回の講演を実施。
- 2013年7月 20才 カウンセリング開始
- 2014年1月 21才 乳房切除手術
- 2014年5月 21才 ホルモン治療開始
- 2014年8月 21才 改名
- 2015年2月 22才 性別適合手術
- 2015年8月 22才 戸籍の性別変更完了
前回は就職活動のお話を聞きました。今回は転職活動編ということでよろしくお願いします。
前回は就職活動の話を教えてもらいました!
転職した理由
ーー前職はベンチャー企業に勤めていたそうなんですが、可能な範囲で前職を辞めた理由を教えて下さい。トランスジェンダーであることが、転職理由だったりしますか?
僕が前職を辞めた理由は「労働時間の長さ」です。
終電で帰る、会社に泊まる人が偉いというような雰囲気が当時は当たり前のようにありました。
ベンチャー企業なんだから「必死に働けよ、考えが甘い。」と言われるとそれまでですが、僕はついていけませんでした。
綺麗な辞め方ではなかったのであまり詳しくは言えませんが(笑)
地味にあわなかったのが「会社=家族、仲間」という価値観。
大手と違って少人数だから、集団行動しなくてもいいと思ったのに、全然イメージと違いました。
社員みんなで行く月1回の飲み会とも個人的にいらない派です。
「ココロとカラダの安定」
就職してから気づいた自分の価値観のズレが積み重なり「ココロとカラダの安定」をどんどん失っていました。
ある日、限界がきてはりつめていた糸がプツンと切れてしまいましたね。そこからは「ココロとカラダの安定」を求めて、新しい仕事を探そうと転職活動に移りました。
僕の場合は特にトランスジェンダーだからと言って会社で差別されたなどはありませんよ。
ーーなるほど。それではセクシュアリティは一切関係なく、単純に仕事面が転職した理由なんですね。
転職で目指した業界職種・会社の規模は?
ーー転職するときに、目指した業界職種や会社の規模はありますか?
「これがしたい」と決まった業界などはありません。
でも、新卒での経験から、今回仕事を探すときは「1,残業ゼロ、2,年齢層が高い、3,営業職」3つ譲れない条件をつくりました。
プライベートでやりたいことがあるので、定時で帰れる会社。顧客の年齢が高いと仕事で結果が出せると思った。
そして、前職と同じ営業職に絞って転職活動をしました。
転職先を見つけたキッカケ
転職先は地元中小企業で冠婚葬祭業の営業に決めました。
転職サイト「マイナビ」に登録して、自分の希望条件にマッチする会社を探しましたね。この辺はトランスジェンダー関係なく、よくある転職活動だと思います。
転職活動のとき「LGBTフレンドリー企業」を意識したか?
ーー転職サイトを利用されたんですね。それではLGBTフレンドリー企業かどうかは意識されましたか?
LGBTフレンドリー企業はそこまで意識しませんでした。
ネットで「LGBTフレンドリー企業×転職」と検索して、面白そうという興味は持ちました。しかし、僕の譲れない条件に該当する企業はなかったので、転職サイトを利用しましたね。
転職活動を始めたときの治療状況
ーーカズマさんが転職を初めたときの治療状況はどうでしたか?
トランスジェンダーの中には、性別変更のタイミングで会社を辞める人もいますよね。
僕は新卒の会社にいるとき、戸籍上の性別変更を済ませていました。
そのため転職サイトを使うときは何も気にせず、申込みフォームに改名した名前・男性と記入できました。
服装・履歴書
服装は当たり前のようにスーツとネクタイ。
そして就職活動のときは「名前と性別」をどう書くかについて、めちゃくちゃ悩んだ履歴書があっという間に書けましたね。
前職を辞めた理由を、どんな風に書くのか悩みましたよ(笑)
ーー戸籍上の性別変更を終えると、当たり前かも知れませんが「男性」としての社会生活ですよね。
カミングアウトについて
ーーカズマさんは転職活動の中でカミングアウトされましたか?
カミングアウトの有無は非常に悩みましたね。
表面の薄っぺらい履歴書なんかは気にせず記入できますが、よくも悪くもトランスジェンダーである自分をどうしようかって。
説明しづらいんですが「性別変更をしようがしまいが、自分のなかで性別に違和感があって、その事実も僕を構成する一部」なんですよ。
僕っていう人間を知ってらうため全て事実を言うべきか、見た目で分からないから相手に聞かれない限り黙っているか考えました。
結果として、誰にも言わない「埋没」を選択しました。
埋没する選択「1人の営業マンとして勝負したい」
ーー埋没を選んだ理由を教えてください。
「1人の営業マンとして勝負したい」と答えがでました。
自己満足になるんですけど、過去を取っ払って今この瞬間から勝負して結果を出すぞ。とある意味で区切りをつけました。
根本的にオンとオフの線引き、自分を演じることが好きなんですよ。
前職では仕事とプライベートの線引きがなく、全部を会社に伝えて疲れてしまったので、同じことの繰り返しは嫌だなって。
どうせだったら、カミングアウトして働くと埋没して働くのどっちも経験したら、後でなんか役立ちそうだなって考えもあります。
今は線引きがあっていると非常に思いますよ。会社での自分とプライベートの僕は、違う人物だと思って、毎日楽しく仕事ができています。
講演活動と仕事
ーーLGBTについて講演活動をされていますが、活動と仕事の両立は可能なんですか?
講演会などを行っていますが、こちらも活動と仕事で区別をしています。
僕は仕事が冠婚葬祭業のため、講演対象(教育現場が多い)の方たちと、異なるジャンルなので影響はほぼありません。
会社で一緒に働いている人は、僕がトランスジェンダーで講演をしているとは知らない状況です。
もし何かの拍子で気づかれたらそのとき考えます。一応、会社の中でポジションをつくり仕事の成果は出しているつもりなので、どうにかなると思います。
就職活動を経験した感想
ーーカズマさんは順調に転職ができた感じですね。転職活動で印象に残ったエピソードはありますか?
僕は6社ほど転職活動をしました。
何十社も受けた訳ではないんですが、採用をもらえたり、最終選考まで進んで辞退したりするなど、比較的順調に進みました。
カミングアウトで会話が弾む
採用通知をもらったけど、志望度の低い企業には実験的にカミングアウトをしました。
「いまさらなんですが、実は元女性なんですよ。」と、不採用にされるかなと思いました。
ところが、その時の人事担当者はトランスジェンダーという言葉を知っていて、逆に会話が弾みました。
話を聞いていくと友人に当事者の人がいたそうです。
そして、カミングアウトした方が興味を持ってもらえて「絶対にウチで働いて欲しい」と断りづらい感じになりました(笑)
人事担当者の雰囲気もいい感じで少しだけ心が揺れましたね。一緒に働いたら楽しそうだと。
人事担当者がトランスジェンダーに限らずLGBTのことを知っていると知らないでは、採用の機会損失に影響があると感じました。
転職して働いた感想
ーー転職後の埋没してみた苦労はなにかありますか?
僕は想像以上にないです。個人のパス度により差があるかも知れません。
あ!年に1度の健康診断が困ります。乳首あたりに胸オペの傷があるので、万が一、更衣室で会社の人に見られたらどうしようってドキドキします。
いまのところ、受付けの順番ごとに時間差があったりしてどうにか重ならずにいます。
トイレ問題回避
トイレ問題と書くとオーバーかも。連れション問題があります。
僕は少人数の会社で1人営業のため困りませんが、複数人で同じオフィスにいたり、移動が多い人は気をつけましょう。
トイレへ行くとき毎回個室だと不思議に思われるかも。埋没を考えている人は連れションに誘われたときどう対処するか考えておくことをオススメします。
夜のお誘い
埋没についてもうひとつ。どこまで言っていいやら。
カミングアウトしているときはほぼなかった飲み会後、男性特有の夜のお誘い。(表現の仕方が独特でごめんなさい)
埋没すると一気に増えます。まあ周囲の環境にもよりますね。
夜のお誘いもどう対処するかいろんな意味で考えておくと一層過ごしやすくなります。
いま仕事について悩んでいる人へメッセージ
はじめの一歩を踏み出そう
失敗してもあなたが悪いと思わなくていい
まとめ
今回は転職活動の体験をインタビューしました。
全員が同じ境遇とは言えませんが、これから就活に挑む方は参考にしてみてはいかがでしょうか。
- 講演と仕事の両立
- 健康診断でのドキドキ
- 埋没の準備